ようこそ。私は竹やぶに建つ不思議な屋敷の住人です。ここにはいろんな人が住んでいて、それぞれまったく違う特徴を持っています。
「発達障害」と呼ばれる私たちはいったいどんなことを感じ、考えて生きているのでしょうか? 今回は、カフェベルガの訓練生の一人からお話を聞くことができました。

「思っていることを、うまく伝えることができない子供時代でした。
内心では怒っていたり、いろいろ感じたり考えたりしているのに、まるで察してもらえず、考えなしに行動している単純な人間だと思われている、という」

Aさんは、21歳の男性です。カフェベルガでは、就職を目指して訓練に取り組んでいます。

小さな頃は、地域で様々な年齢の子に混じってサッカーやケイドロなどの外遊びをする、普通の男の子でした。
「ただ、落とし物が多かったり指示がぬけやすかったり、連絡帳を書いても自分でも解読できないものになってしまったりするなどの苦労があり、あんまりほめられない学校生活ではありました」
そんな中でも、小学校二、三年生の頃、詩を書いてほめられたことが記憶に残っているそうです。

苦労し始めたのは、五年生ぐらいの頃から。周囲と『ずれ』が出るようになり、他の人が想像もしないようなところでつまずいていました。
たとえば、テストの時。解答欄の大きさで答えの長さを推測するのはやる人も多いと思います。ですが、
「自分の考えた答えと欄の大きさが合わなくて何も書けず、白紙で提出してしまったり。結局その時は、思いついたもので正解だったんですが(笑)」
クラスの子にはからかわれたりすることも。それでも友達もおり、明るい子だったのですが、中学、高校と上がるにつれ、『ずれ』は大きくなっていきました。

「ノートは取っていたのですが、授業が頭に入っていかず、成績はどんどん悪くなっていきました。体育でダンスをやっても、自分ではちゃんと踊っているつもりでいるのに何かが違う、と言われたりします」

中高生は、ちょっとでもずれていると居場所がなくなっていく時期でもあります。
何も考えていない人間だと思われて軽んじられているうち、Aさんの明るかった雰囲気もしだいに暗くなっていき、そのため周囲との関わりもさらにまずくなっていくという悪循環にすっかり陥ることに。
話を聞いているだけでも苦しい状況に思えます。
「でも、家族にはばれないようにしたかったんです」
一番近しいはずの人たちにも、相談して頼ることはできませんでした。
「話したくなかったし、話したとしても、誰にも自分の考えていることはわからないと思っていて。ひたすら一人で自己嫌悪して、世界一不幸だ、という今にして思えば被害妄想の中にいました」

そのしんどさを隠しているのが限界になったのは、専門学校に進学してからのことでした。
「中高とはまったく違う環境でも浮いてしまい、気味悪がられていたように思います」

紆余曲折の末、専門学校をやめて一年ほど引きこもり、精神科の門を叩きました。
「その時、話したくなったんです」
Aさんは初めて、自分の感じていることや、今までの苦労、違和感を人に打ち明けました。
そこで「発達障害の傾向があるのでは」と指摘されます。
検査の結果、AD/HDと診断されました。
AD/HD(注意欠如/多動性障害)は発達障害の一つで、『不注意』と『多動・衝動性』を主な特徴とします。子供の頃から現れるもので、活動に集中しづらい、物をなくしやすいという症状が知られており、本人の頑張りだけでは改善が困難です。そのため多くの人は、大人から叱られたり、対人関係でつまずいたりすることで、さらに自信をなくしていきます。

「納得しましたし、安心しました。もちろん『あなたは障害者だ』と言われて少し傷付きはしたのですが、これまでのことは、しょうがなかったんだな、って」
19歳のことでした。違和感を覚えるようになってから、およそ十年が経っていました。

それからしばらくは、厚労省が設置している『地域若者サポートステーション』の相談窓口で週一回、話を聞いてもらうことに。
「聞いてほしかったんです。自分の話を聞いて、理解してくれようとしている、という実感を持つことができました」
そのうちに就職について相談し、カフェベルガを紹介されます。

カフェベルガの訓練では、学生時代にぶつかっていたような大変さは感じないと言います。
「パソコンでの資料作成やプレゼンテーションなど、興味を持てる内容で、言われたことが入ってくるし、自分の中に蓄積されていますね」
今では、「思い詰めていた時期はやばかったな」と自ら思えるようになっているそうです。

余暇は地域のクラブ活動で体を動かしたり、ネット対戦ゲームで遠くの人と交流したりも。
「お世話になっている施設の方が『作りたい』と言っていたことから、絵本製作にチャレンジすることにもなりました」

そんなAさんには今、就きたい仕事があります。
「相談を受ける仕事がやりたいんです。
人の話を聞きたくて」
『相談支援』という、障害のある人が課題の解決や適切なサービス利用をするために、相談に乗り、計画を立ててくれる事業があります。Aさんが利用している施設が、職場としてもとてもよい環境なのだそうです。
「担当じゃない方も気さくに話しかけてくれるんです。いいなあ、って」


カフェベルガでは、こういった、就職を目指すものの一般的なルートから外れてしまった若者に、まず『就職』というものを具体的にイメージしてもらうことに力を入れています。

「自分の思っていることの表現、そして、人の話を理解すること。これらは就職の基本です」
訓練スタッフはそう語ります。
「そしてさらには、自分がどういった仕事に向いているのか、やりたい仕事が何なのかということを見つけてもらうため、さまざまな種類の訓練や体験の機会を設けています」

また、面談で話をしてもらうことで、そういった気付きを助けたり、一緒に振り返って探り出すお手伝いもしています。

「Aさんの場合は希望する職業がありますが、そうであってもなくても、ここでの訓練を通していろいろな可能性に気付き、その中から自分を生かす道を選び取ってほしいと願っています」